
バンフ国立公園の西に隣接するクートニー国立公園はブリティッシュ・コロンビア州に属する。北に接するのは、同じくBC州ヨーホー国立公園、南はマウント・アッシニボイン州立公園。クートニーは南北に細長い公園で、中央の谷をハイウェイ93が突っ切っている。トランスカナダ・ハイウェイからは外れている為、あまり目立たない存在だろう。バンフやジャスパーの喧騒を避けて、落ち着いた山旅を楽しみたい場合の穴場だと言える。クートニー最大のアトラクションは、ロックウォール・トレイル。ハイウェイ93の西に立ちはだかるバーミリオン山脈の、40kmに渡る荒々しい大岩壁と氷河群のトラバース。高さ1000mの垂直の岩壁を背にしたフロー・レイク(標高2020m)は、一見の価値はある。公園北の玄関口は、トランスカナダ・ハイウェイ上のキャッスル・ジャンクション。南の玄関口は、ハイウェイ93のラディウム・ホットスプリングス。
参考データ:
Rockwall Trail
起点:Marble Canyon (Paint Pots)
距離:55.6km
時間:4〜5日
難易度:健脚向き
高低差:995m
エスケープ・ルート:Tumbling Creek trail
Numa Creek Trail
補足:
バックカントリー・キャンプには、ウィルダネス・パスが必要。グループサイズは最大10人まで。2009年現在の入園料は$9.80、年間パス$84.40。キャンプサイト利用料$9.80。年間7泊以上するなら、年間パスがお得($68.70)。
トレイルヘッドへのアクセスは、2009年現在、グレイハウンド・バスが利用可能。キャッスル・ジャンクション〜ラディウム・ホットスプリングス間を約2時間で、一日一往復している。バンフ発の便は、朝8時頃にはマーブル・キャニオンを通過する。南側ラディウム発の便は、昼直前の通過となる。正式なバスストップではないので、事前に目的のトレイルヘッドで降車したい旨ドライバーに説明しておく必要がある。タクシーをアレンジした方が迅速確実。

マーブル・キャニオン、及びペイント・ポットは、一般観光客向けネイチャー・トレイルとして整備されている。ペイント・ポットは、主に鉄分からなる多量のミネラルを含んだ冷泉が各所で湧き出し、自然のプールを形成、まるでミニチュア版のイエローストーンを見る感がある。ここで採れる濃い赤の土は、かつての先住民に化粧材として重宝されたようだ。
概念図に記したオーカ・クリーク・キャンプサイトは、2009年現在は廃止されている。同じく概念図には一々記していないが、トレイルは途中、幾つもの橋を渡る。ヘルメット・フォールズ・キャンプでは、かつては焚火が出来たが、現在は禁止されている。タンブリング・クリーク・キャンプサイトは谷間に開けた運動場のような空間にあり、非常に気持ちがよい。水は直ぐ上のタンブリング・グレイシャーから直接供給されており、そのままでは舌にジャリジャリして、あまり美味しいとは言い難い。フィルターを用意しておいた方が無難。
トレイル自体はよく整備されており、特に問題はないだろう。トレイル上最大の登りは、ヘルメット・フォールズ〜ライムストーン・サミットへ向けての急登。ここをやり過ごせば、後は爽快な高原ハイキング。途中のタンブリング・クリーク、及びヌーマ・クリークで一旦森林帯への下降と登り返しを余儀なくされるが、最終キャンプのフロー・レイクを目の当たりにすれば、それらの労も報われる筈。


山行時期については、個人的には初秋の頃をオススメしたい。9月中旬〜10月上旬が狙い目だ。9月最初の降雪を過ぎて、カナディアン・ロッキーが本格的冬支度を始めるまでの間隙を突く。朝晩の冷え込みは厳しく、夏場に慣れてしまった身体には凍てつく思いだが、太陽が昇れば生き返る。高原が、一気に黄金に染まる。蒼い大空を背景に、金色に染まったアルパイン・メドウ、その向こうに展開するライムストーンの大岩壁、そして、白い氷河、その対比が素晴らしい。
記録(1994年9月):
24日(晴れ)
この年のカナダは天候に恵まれ、9月下旬を迎えても暑い日が続いた。キャッスル・マウンテンから、ヒッチハイクでペイント・ポット・トレイルヘッドへ向かう。運良くパークサービスに勤務する女性の車に拾われた。初日はヘルメット・フォールズにキャンプ。他には、男性の二人組しかいなかった。陽が落ちると冷え込む。焚き火を起こすと、二人がウィスキーを持って近づいて来た。(15.3km、行動5時間)
25日(晴れ)
ヘルメットの滝と別れて急坂を登る。森林限界に近づくと、目も眩むばかりに黄葉したカラマツ林に出会う。ライムストーン・サミット(2170m)に出ると、ロックウォールが真正面に展開した。この先40kmに渡り、カンブリア紀石灰岩層の大岩壁が続く。カラマツとツンドラで黄金に染まる高原、山の氷河と雪と岩、そして澄み切った空の青さが素晴らしい。

次第に風が出てきた。強い向かい風に逆らってロックウォール・パス(2240m)を越えた。タンブリング・クリークのキャンプサイトに向けて、一旦ロックウォールから離れる。谷あいの広場を挟んで、東西両サイドにテント場が並んでいた。他にキャンプするのは、アメリカ人カップル一組だけだった。(11.9km、行動5時間)
26日(晴れ)
タンブリング・クリークに掛かる橋を渡り、再びロックウォールに向けて谷を登る。タンブリング・パス目前のロックウォールは、当に壁となって東西空間を隔てていた。上空に、月が浮かんでいた。

タンブリング・パス(2210m)で一人のバックパッカーとすれ違う。町中では他人がわずらわしく思える事も多いが、こんな季節外れの山の中で人を見ると、嬉しい。たった一人で大自然の中に飛び込んでみると、自分がいかに頼りない存在であるのかを思い知らされる。この後トレイルは、谷の奥深く急降下、森の中に入っていく。(7.1km、行動5時間)
27日(晴れ)

深い森を出て、アバランチ・エリアを抜け、再び森林限界を目指す。ロックウォール・トレイルの最高地点、ヌーマ・パス(2355m)には強い風が吹き荒れていた。まともに立っていられないほどの風だった。フォスター ・ピーク(3204m)へ続く稜線に、小さな竜巻が発生した。峠から見下ろすフロー・レイク(2040m)、そこから垂直に1000mの高さで覆い被さるように屹立する岩山には、名前がない。ゆっくり景色を味わった後、湖に下る。本日も、わずか一組二人のデイハイカーに会ったのみ。(9.7km、行動4時間)
28日(晴れ)

朝日を受けたフロー・レイクの光景は素晴らしい。名残惜しいが、ハイウェイ93へ向けて下山する。途中で二人のデイハイカーと、三人の女性ワーデンとすれ違った。(10.3km、行動3時間)